どうやったら編集者になれるのか?
編集者って得体の知れない職業ですよね。編集者を名乗っている私自身もそう思います。
できあがった文章や本などのコンテンツを見ても、編集者のどんな仕事が反映されたのかはわかりません。完成したコンテンツに変更履歴は残らない。つまり、コンテンツの受け手にとって編集者は限りなく透明に近い存在です。
新米編集者時代、料理研究家であるご本人から「料理研究家って資格があるわけじゃないから、名乗ったその日から誰でも料理研究家になれるんですよ」と聞いて、「へぇ〜、そういうものなのか!」と驚いたのを覚えています。
しかし、考えてみたら、編集者だって資格が必要な職業ではありません。今の私の編集スキルや能力を証明するものは、ない。
それこそ新米編集者だった当時の私は、スキルも能力も実績もゼロ。名刺に印刷された「編集」という二文字だけが、自身が編集者であることを示す唯一の物的証拠でした。
編集者として求められるスキル・能力とは
資格がないわけですから、料理研究家と同じく誰もが「私は編集者です」と名乗ることはできます。しかし、誰もがすぐに編集の仕事ができるわけではありません。
料理研究家を例にして、編集者として必要なスキル・能力について考えてみます。
【料理研究家として求められるスキル・能力】
・食材・調味料を組み合わせて、独自のレシピを考案する力
・おいしい料理を作る技術
・コミュニケーション能力
・仕事を受注する力(信頼・経歴・実績)
これを(独立系)編集者に当てはめてみます。
【編集者として求められるスキル・能力】
・著者とテーマを組み合わせて、独自の企画を立てられる力
・売れる(人気の)コンテンツを作る技術、読みやすい文章に整える技術
・コミュニケーション能力
・仕事を受注する力(信頼・経歴・実績)
つまり、これらのスキル・能力がないと、実際のところ独立した編集者として仕事をしていくのは難しいということです。
料理のスキルや知識であれば、調理学校で学んだり、料理研究家として活躍している人のアシスタントになったりして学ぶことができます。仕事は、有名な料理研究家のアシスタントから独立するのであれば、師匠のツテで仕事の話が舞い込んでくることもあるでしょう。
では、編集者は? 編集者としてのスキルや知識はどうやって身につければいいの? 仕事はどうやって見つければいいの?
私自身がどうやって編集スキルを身につけたかというと、入社した出版社で先輩のやっていることを見て、指示通りにやってみて、先輩や上司からフィードバックをもらって、自分なりに工夫してみて、失敗して……の繰り返しです。これを修業のようにひたすら繰り返すことで、ちょっとずつちょっとずつ、薄皮を重ねるようにして身につけてきたように思います。
もちろん、世の中には編集スキルを学ぶ学校もあります。ただ、そこで学んだからといって、すぐに編集者としてスタートを切れるかというと、ちょっと違う気がするんですよね。座学では身につかないものが、どうしてもある。実践の積み重ねでしか身につかない勘所や間合いみたいなものが、確実にある。仕事だって、実績がない状態ではなかなか舞い込んでこない。
そう考えると、現場で役立つ編集スキルを身につけるには、今のところ出版社やメディア関係の会社に入って、ひたすら実践を繰り返す修業期間を取るしかないんですよね。特に「お金をもらいながら」編集スキルを身につけるには、やはり会社で仕事をしながら学ぶのが一番効率がいい。
そこで編集の基礎力を身につけ、ある程度業界に知り合いができた状態で独立すれば、それまでの経歴や実績をもとに、編集者として仕事をしていくことはできると思います(もちろん簡単ではありませんが)。
ただ、Web系メディアはさておき、新聞・出版業界は斜陽産業。特に最近は紙の原価が高騰するなど、さらに厳しい状況になっていると聞きます。
もちろん順調に業績を伸ばしている企業もありますが、業界全体が右肩上がりに発展していく未来は、今のところ描きにくい(もちろんこれからの工夫によって違う展開も十分あり得ますが)。
斜陽産業とはいえ、そういう業界に行かないと、お金をもらいながら編集の基礎力を身につけるのは難しいのが現実。しかし、売上が伸び悩むと雇用も活発にされなくなり、編集者への道はさらに狭き門となってしまう……という悪循環。
時代に求められる編集の力
ひと昔前と違い、個々人がメディアを持てる時代になりました。それに伴って、ビジネスとしてコンテンツを継続的にアウトプットする必要がある人・企業はどんどん増えてきています。
つまり、コンテンツを生み出す・整える仕事への潜在的ニーズは右肩上がりに増えているはずなのです。しかし、あくまで「潜在的」であり、顕在化していない。
なぜでしょうか?
基本的にメディア業界にいる編集者は、自分で作った企画を形にするのが仕事です。コンテンツを能動的に生み出している。そういった人たちは、いま世にあふれている「編集が必要な案件」に自ら関わりにいくことは基本的にありません。
現状、世の中にある「編集が必要な案件」は、編集が必要だとは認識されないまま「なんとなく整えられて、なんとなく世に出ている」状態だと思います。
発信側にそもそも「編集」という概念がインストールされていないので、編集する必要性を感じていない、というのが実情でしょう。
・編集という汎用性があり、役立つスキルが世の中に認知されていない。
・編集力を生かしてコンテンツを磨いてくれる人が、そもそも手の届く範囲内にいない。
・だから、「こういう案件は編集者の人に頼んでみよう!」という展開にならない。
はい、負の三拍子そろいぶみ!
私が抱えている課題
編集を社会にインストールできたら、もっと世の中が良くなるのでは?
そう思うけれど、世の中にあふれているコンテンツを整えて磨き上げる編集者が不在。たとえるなら、ちょっと風邪を引いたときに気軽にかかれる町医者がいないという状態です。
メディア業界にいる人たちは、業界から外に出てこないし、フリーランスの編集者も、版元やメディアの方を向いて仕事をしている人が多いように思います。市井の人々にあまり目が向いていない。
このあたりに、私は課題を感じています。
とはいえ、私自身はしがない一職業編集者なので、編集者を次々と育てあげるだけの体力・時間・お金の余裕がない。そして、私自身「教える」のが得意かというと決してそうではない。「私はこうやっていますよー」という「シェア」ならできるけれど……。
はて、どうしたものか。
このあたりに今、課題を感じています。
同じような課題を今まさに感じている方、どこかにいないかなぁと思って、久々にブログを書いてみました。