編集者は原稿をどのようにチェックしているか【虫の目編】
わたしは文章を「鳥の目」(文章全体を見る)と「虫の目」(一文一文を見る)でチェックします。
「鳥の目」については前回のブログにまとめました。
ちょっとわかりにくかったかなーと反省していますが、めげずに今回は「虫の目編」について書いていきます。
内容としては「一文一文を読みやすくするために、わたしがしていること」になります。
では、以下の文章(悪い例)を解きほぐしていく形で進めていきましょう。
わたしが○○市に引っ越したのは、夫もわたしも仕事がほぼオンラインになって、地方に住んでも支障がなくなったことが大きな理由ですが、この街には広い公園もたくさんあって、子どもをのびのび育てる環境が整っています。
この文章を読んで、あなたはどう感じますか?
「え? おかしいところなんてあった?」と思うか。
「ん? なんか気持ち悪いけどどうしてだろう?」と思うか。
「お! こう修正したほうがいいのでは?」と思うか。
人によってマチマチかもしれません(実際どうなんだろう)。
では、ステップ形式で進めていきましょう!
STEP1:一文を短くする
noteを書いたり、読んだりしている方であれば、この言葉を一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
「一文を短く」
エッセイや小説は、あえて一文を長くすることで独特のニュアンスを出すこともあります。
ただ「情報」「伝えたいこと」を広く、たくさんの人に読んでもらいたい場合は「一文を短く」が鉄則です。
一文が長い弊害(読み手側):書き手が伝えたいことが、読み手の頭の中にスッと入らない。
一文が長い弊害(書き手側):文頭で言っていることを文末で回収できなくなってしまう。
つまり、一文が長いと、書き手も読み手も文章の森の中で迷子になってしまうのです。
さて、冒頭の「悪い例」をもう一度読んでみましょう。
わたしが○○市に引っ越したのは、夫もわたしも仕事がほぼオンラインになって、地方に住んでも支障がなくなったことが大きな理由ですが、この街には広い公園もたくさんあって、子どもをのびのび育てる環境が整っています。
さらっと読むと気づかないかもしれませんが、よーく読むと文頭で言っていることを文末で回収できていないことに気づきます。
これは、一文が長いことによって「主語と述語のねじれに書き手自身が気づかなかった」ために起きた現象です。
(本来、「(文頭)わたしが○○市に引っ越したのは」であれば「(文末)〜からです」となるはずだがそうなっていない)
では、どうするか。一文が長くてわかりにくいとき、わたしは
1:文中に省いても問題のない箇所があったら取る
2:文章を2つに分ける
のいずれかの方法をとります。
今回は省くところがなさそうなので「2:文章を2つに分ける」で対応します。早速、冒頭の「悪い例」を2つの文章に分けてみましょう。
わたしが○○市に引っ越したのは、夫もわたしも仕事がほぼオンラインになって、地方に住んでも支障がなくなったことが大きな理由です。
ーーー
この街には広い公園がたくさんあって、子どもをのびのび育てる環境が整っています。
STEP2:伝える順番を精査する
この文章のテーマは「わたしが○○市に引っ越した理由」です。では、理由として挙げられている項目を整理してみましょう。
理由①:夫もわたしも仕事がほぼオンラインになって、地方に住んでも支障がなくなったからです。
理由②:広い公園がたくさんあって、子どもをのびのび育てる環境が整っているからです。
理由①と②、どちらが「わたしが○○市に引っ越した」メインの理由だと思いますか?
・・・・・(考える時間)・・・・・
おそらく②(子育て環境が整っている)がメインの理由でしょう。「○○市」に引っ越した理由ですから。
①(仕事のオンライン化)は、「○○市」に引っ越した理由としては二次的要素です。
この場合、メインの理由から伝えたほうが頭に入りやすいでしょう。①と②の順番を入れ替えます。
わたしが○○市に引っ越したのは、
理由②:広い公園がたくさんあって、子どもをのびのび育てる環境が整っているからです。
ーーー
理由①:夫もわたしも仕事がほぼオンラインになって、地方に住んでも支障がなくなったからです。
STEP3:なめらかに流れるように調整する
では、この2つの文章が「なめらかに」「流れるように」読み手の頭に入っていくよう調整していきましょう。
補足の言葉もうまく加えながら、元の文章にあった情報が過不足なく伝わるようにします。
【調整前】
わたしが○○市に引っ越したのは、夫もわたしも仕事がほぼオンラインになって、地方に住んでも支障がなくなったことが大きな理由ですが、この街には広い公園がたくさんあって、子どもをのびのび育てる環境が整っています。
【調整後】
わたしが○○市に引っ越したのは、広い公園がたくさんあって、子どもをのびのび育てる環境が整っているからです。夫もわたしも仕事がほぼオンラインになり、地方に住んでも支障がなくなったので決断しました。
こんな感じで整理していくと、書き手が本当に伝えたかったことがより正確に、正しく読み手に伝わるのではないでしょうか。
STEP4:読点の位置と数を調整する
最後の最後の仕上げは、読点の位置と数の調整です。読点は文章のリズムを作り出す大きな役割を果たしています。
【読点多すぎ】
夫もわたしも仕事がほぼオンラインになり、地方に住んでも、支障がなくなったので、決断しました。
→突っかかってしまってリズムが悪い
【読点少なすぎ】
夫もわたしも仕事がほぼオンラインになり地方に住んでも支障がなくなったので決断しました。
→息つぎができなくて苦しい
【読点の位置がおかしい】
夫もわたしも、仕事がほぼオンラインになり地方に住んでも、支障がなくなったので決断しました。
→変なところで突っかかってしまう
【読点の数、位置ともに適切】
夫もわたしも仕事がほぼオンラインになり、地方に住んでも支障がなくなったので決断しました。
→リズム良く読める
このように、「書き手がこの文章で何を伝えたいのか」「読み手に伝わりやすくするためにはどうすればいいか」を考えながら、一文一文細かく見ていきます。
さらに、前後の文脈やリズムも考慮する必要があります。書籍の場合は、この作業を約10万字分チマチマ進める必要があるわけです。
編集の仕事って皆さんが思うよりもずーーっと地味だということが伝わったでしょうか……!
このように「鳥の目」「虫の目」を切り替えながら、文章の「もつれ」を解きほぐしていくのが編集者の仕事の1つです。「文章のコリをほぐして、血の巡りを良くする」感じです。
大切なのは、著者さんが伝えたいことがスーッとなめらかに読者に伝わるようにすること。文章の細かい調整は、そのための「チューニング」です。
あくまでも自己流なのですが、どなたかの参考になれば幸いです!