編集者は原稿をどのようにチェックしているか【鳥の目編】
編集とは、0→1ではなく、1→10にする仕事です。
扱う文章は、基本的にライターや著者など、他者が書いたもの(0→1)。
それを「どうすれば読者に伝わりやすいか」「より効果的か」を考え、添削していきます(1→10)。
この作業を「原稿整理」といいます。本の出来を左右する、とても重要なプロセスです。
原稿整理をする際、どういう視点から文章を見ているのか。
どの点に注意し、赤を入れたりコメントを入れたりしているのか。
仕上がった本や文章には残らない編集者の「変更履歴」とはどんなものか。
個人差がある分野だと思いますが、わたしが書籍の原稿を受け取ったときにしていることを書いてみようと思います。
「鳥の目」と「虫の目」を行ったり来たり
受け取った文章を、わたしは「鳥の目」と「虫の目」の2つの視点から読み解いていきます。
鳥の目……文章全体を見る。
虫の目……一文一文を見る。
実際は、この2つの視点を細かく切り替えながら文章の「流れ」を地道に整えていきます。
とはいえ、2つをゴッチャにして説明するとわかりにくくなるので、今回は【鳥の目編】として、文章全体をどう整えていくかをまとめてみます。
ちなみに、以下のそれぞれの作業は編集者として独断でやるわけではありません。基本的にまずは著者さんに「提案」し、「相談」したうえでどうするかを決定しています。
1. 文章の構造・階層を整える
書籍の目次を見ていただくと、その本がどういう構造になっているかがわかります。
一番大きな枠が「章」。章がいくつか連なって、全体を構成しています。
章のひとつ下の階層にあたるのが「大見出し」のついた項目。各ページの最初に大きい文字で1〜2行入っている言葉です。
大見出しのさらに下の階層として「小見出し」のついた項目が入ることもあります。大見出しがついた文章の塊の中に、小見出しの項目がいくつか入る形です(小見出しは目次に入っていないことのほうが多いです)。
各章の最後に「まとめ」のページが入っていることもありますし、「型」はその本によってさまざまです(その本にとってベストな「型」を設定することもとっても大事)。
つまり、書籍は以下のような入れ子構造になっているのです。
1章 タイトル
大見出し①
小見出し①
小見出し②
小見出し③
小見出し④
大見出し②
小見出し①
小見出し②
小見出し③
大見出し③
小見出し①
小見出し②
小見出し③
小見出し④
2章 タイトル
大見出し①
小見出し①
小見出し②
小見出し③
小見出し④
大見出し②
小見出し①
小見出し②
小見出し③
・
・
章、大見出し、小見出しは、いわば文章を構成する骨組み。
家でいうところの柱のような存在です。柱がそこにあるべき太さ、大きさでそろっていないと家は崩れてしまいますね。
同様に「章タイトル」「大見出し」「小見出し」がそれぞれのカテゴリーごとにきちんと並列になっていることがとても大切です。
並列というのは、扱っている内容のレベルが同じということです。
大見出しは大見出しで、扱っている内容が同レベル
小見出しは小見出しで、扱っている内容が同レベル
になるように整えます。
大見出しになるべきものが小見出しになって紛れていたり、小見出しを立てて項目を分離すべきところがそうなっていなかったり。そのあたりを地道にチェックし、整えていきます。
いわば、決めた「型」からはみ出ている部分を調整する作業です。
2. 同じ項目に入るべき文章をピックアップしてまとめる
書いている本人はなかなか気づきにくいのですが、同じ項目としてまとまっていたほうがわかりやすい話が、文章全体に散らばっていることがよくあります。
章の中で項目をまたいで散らばっていることもあれば、章をまたがって文章全体に散らばっていることも。
それらを集めて、あるべき項目に自然な形でなじませたり、新たな項目を作ってまとめたりします。
よーく見ると同じ色をしている文章を拾い集めて、色ごとにまとめる感じといいますか。
このあたりは、やはり第3者としての視点がものをいいます。
3. 重複している箇所をチェックし、ひとつだけ残す
同じエピソードが複数の項目の中に入っていたり、同じエピソードが若干形を変えて複数の項目に紛れ込んでいることもよくあります。
それが効果的であれば問題ないのですが、読者側からすると「あれ、この話さっきも書いてあったな」となってしまいます。
ですので、基本的に重複しているものは1カ所のみ残して削除します。
その際は、その話をどの項目に残すのが一番効果的なのかを慎重に検討します。
4. 余計な部分を削除する
「入っていても特に問題はないけれど、特に効果的でもない」部分は、できるだけカットしたほうがいいです。
文章の濃度は、濃ければ濃いほうがいい。
余分な脂肪はできるだけ削除して、筋肉質に仕上げたほうがベターです。
ただ、「どの部分が脂肪なのか」は書いている本人はわかりません。このあたりも、第3者だからこそ見えてくる部分です。
5. 読んでわからない部分について質問する
編集者の仕事の本質は「わからないことをわからないと言う」ことだと思っています。
無知のプロといいますか。「その道に詳しくないほうがいい」くらいにわたしは思っています(もちろん専門書であれば話は違ってきます)。
基本的に、著者として文章を書いている人は、ある分野のプロです。そのプロにとってはあえて書くまでもないことや、知っていて当然だと思っていることってあるんですよね。
プロは「読者がわからないこと」が逆にわからないのです。
読者とプロの間にある溝を埋めるのが、編集者の「わかりません。教えてください」です。
なので、読んだときに自分の中に生まれた「わからない」を流さないようにしています。自分の中の「無知のモノサシ」を信じる。
しつこいくらい質問するので、かなりウザいと思います(笑)。
でも、読者のためになるのであれば、いくらでもバカ丸出しで質問します!
6. 誰かを傷つけないか、公序良俗に反していないか、事実と違うことを書いていないかを検証する
広く読んでもらうためのものであれば、できる限り誰かを傷つけないほうがいい。
また、読んだ人によって「常識に反する」「その考えはどうなのか」と捉えられ兼ねない文章については、表現をマイルドにしたり、削除したりすることもあります。もちろん、著者さんと相談したうえですが。
これは、著者さんを守るためでもあります。
とはいえ、マイルドにしすぎると読者の心に刺さりにくくなるので、さじ加減が難しいところです。
このときに必要なのが「想像力」。
この文章を読んだときに、この立場の人はどう感じるだろうかと想像する。この「想像力」は、常に鍛えておかないとなと思っています。
また、書いてあることが事実と違っていないかも検証します。
7. 伝える情報の順番が適切かチェックする
文章は「流れ」が肝だと思っています。
書籍であれば、「はじめに」から始まって、本編があり、「おわりに」で終わる。読者の頭の中に、1本の川の流れを作るようなイメージです。
どういう順番でコンテンツが読者の頭の中を通過すると一番心地いいか。一番浸透しやすいか。
著者が伝えたいことが一番伝わりやすい「流れ」とはどういうものか。
このあたりに細心の注意を払います。それだけでなく、
本の世界に没入してもらうためには、はじめの勢いが大事。
爽やかな読後感を残すためには、終わり方も大事。
最適な「流れ」を作るために、章の順番を丸ごと入れ替えることもあります。
以下のように小さい単位の流れを整えてから、大きい単位の流れを整えていくイメージです。
文章の順番 → 項目の順番(小見出し→大見出し)→ 章の順番
言語化って難しいですね
わたし自身がどのように文章と対峙しているか。今まであえて言語化したことがなかったのですが、チャレンジしてみました。
言語化って難しいですね。感覚的にやっていることなので、なおさらです。
書き足りないこと、書き忘れていることもあるかもしれません。
もし、「これってどういうこと? よくわからない」というところがありましたら、ぜひ「ここがわからないよ!」と教えてください。
次回は【虫の目編】にチャレンジしてみます。お楽しみに!